小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
1996年に、「遺伝子組換え農作物」 の日本への輸入が解禁された。直後、これに対して食としての安全性への懸念が高まった。「遺伝子組換え」 という言葉自身も忌避意識を招いているように思える。大抵の人は、人体の設計図が 「遺伝子」 に書き込まれているのは知っているので、その 「組換え」 と言うと不安を感じるのも無理はない。除草剤抵抗性 「遺伝子組換え農作物」 の場合、その残留除草剤が人体に有害である可能性は考慮すべきであるが、この間、「遺伝子組換え農作物」 自身が非組換え農作物に比べてヒトや家畜に有害であると言う例は、1つも見出せない。日本で輸入が認められている 「遺伝子組換え農作物」 の種類は年々増加し、現在334品種となっている。しかしながら、これらは直接消費者に届く訳ではない。加工食品の原料や家畜の飼料となる点は当初と変わらない。以前は、遺伝子組換え農作物の意図しない5%以下の混入に対し、「遺伝子組換えでない」 との表示が可能であった。しかし昨年より、「遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています」 との、より正確な表示とする制度が消費者庁により施行された。
「遺伝子組換え」 技術の延長線上にある 「ゲノム編集」 は、弊社の主力技術の1つであるが、「ゲノム」 という言葉は濁音を伴い、不気味な感じを受ける。その機能を担うのは遺伝子であり、その化学的本体は 「DNA」である。したがって、「ゲノム編集」 は、「遺伝子編集」、「DNA編集」 とも呼ばれる。技術としては、2012年に複数の研究者により発表され、それらのうちエマニュエル・シャルパンティエ (1968年〜) とジェニファー・ダウドナ (1964年〜) が、2020年のノーベル化学賞の栄誉に輝いた。これは細菌が有する外敵防御システムを活用し、遺伝情報DNAの特定の位置を切断する技術である。これにより、動植物においても特定の遺伝子のみを壊すことができる。この壊すことを前提とした技術は、「ノックアウト (KO) 型ゲノム編集」 と呼ばれ、これは自然界で起こりうる変異と同等であり、区別が付かない。そこで、2019年厚生労働省は、この技術で作られた食品に対し、届出のみで栽培・養殖さらに販売を可能とした。今年度から、その手続きの管轄は消費者庁に移行した。現在、トマト2品目、トウモロコシ、マダイ、トラフグ、ヒラメの計6品目について、ゲノム編集食品としての届出が公開されている。
「ゲノム編集」 で作られたデカフェ茶やコーヒーが消費者に受け入れられるかは、弊社の事業化において最大関心事である。したがって、消費者の意向を調査した。合同会社idxに委託し、調査対象者は500名、男女比は50%、世代比率は20歳代〜70歳代均一とした。デカフェ茶については、約3割の人が買ったことがあると回答。ゲノム編集の茶については、その特性によっては52%の人が興味ありと回答。すなわち、KO型ゲノム編集によるデカフェ茶やコーヒーの市場は、日本において意外と大きいと期待する。
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