「左」 と 「右」 はどちらが優れている?
- Hirokazu Kobayashi
- 7月19日
- 読了時間: 3分
更新日:3 日前
小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
参院選が終盤を迎え、各政党が訴える政策を整理する上での対立軸の1つとして、「左派」 と 「右派」 が挙げられる。これについて、ChatGPT4o (OpenAI) の回答 (以下) は議論の入口として有用である。
表:左派 vs 右派の対立軸

上記には含まれていないが、「左派」 と 「右派」 の対立軸は、「理想主義」 と 「現実主義」 に置き換えると分かりやすい。さらに、「増税派 (緊縮財政)」 と 「減税派 (積極財政)」 と言う対立軸も挙げられる。増税派の議論において、消費税は社会保障や赤字国債の解消に必要だとの主張があるが、これには財務状況の正確な分析結果を提示せず、漠然と民衆の不安を煽っている側面を感じる。さらに、減税が景気を刺激し税収増に繋がるという ”ラッファー効果” に対してどう反論されるのであろう。
さて、「左派」・「左翼」 と 「右派」・「右翼」 は、英語でも “left wing” と “right wing” と呼ばれる。これが外来概念か日本のオリジナルかと調べてみると、外来だった。これらの言葉は、日本では大正時代に使われ始めたようだ。フランス革命期の 「国民議会」 (1789年) において、「国王の法律拒否権」 と 「一院制・二院制」 の是非を巡り、議長席から見て右側に 「国王拒否権あり・二院制 (貴族院あり)」 を主張する保守・穏健派が、左側に 「国王拒否権なし・一院制 (貴族院なし)」 を主張する共和・革新派が陣取ったことに端を発すると言われている。
「左」・「右」 と行政の関係では、日本における7世紀以降の「左大臣」 と 「右大臣」 が挙げられる。どちらが上位かというと、「左大臣」。そういえば、「左右」 というが、「右左」 とは書かない。しかし、口語では 「みぎ・ひだり」 もあり。一方、右を上位に表す言葉として、「私の右腕」、「右に出る者」、「座右の銘」 などが挙げられる。さらに右を上位、左を下位とする 「左遷」 という言葉がある。すなわち、左右の上下関係は混在し混沌としている。
何故? 中国の周 (BCE=BC 1045年) ~ 前漢 (CE=AD 8年) は、「右」 が上位とされた (例:「右将軍」 > 「左将軍」)。後漢 (CE 25年) 以降、「左」 が上位になったとされる (例:「左僕射 (さぼくや)」 > 「右僕射」)。「右」 が上位とする概念は西洋に共通する (後述)。「左遷」 という言葉は、後漢の 「漢書」 に最初に登場すると報告されているが、「漢書」 が編纂されたのは左右の上下関係の変換時期であり、「右」 を上位とする価値感に由来するとする説に説得力があるように思われる。「左上位」 の概念は、「南面思想」 に由来する。「天子は南面す」 という古語から、天子は北を背に座って南を向くとき、左手が東になりそこから太陽が昇る。したがって、「東」 すなわち 「左」 を上位とする。日本の律令制における “左大臣 > 右大臣” や “左近衛府 > 右近衛府” は、これに由来すると考えられる。
一方、ラテン語では、”右 = dexter (器用、良い) → 英語 dexterity”、”左 = sinister (不吉な) → 英語 sinister”。英語では、”right” に “正しい” や “権利” の意味がある。キリスト教の 「最後の審判」 では、神の右に善人、左に悪人が描かれる。イスラム教では、右が 「清浄」、左が 「不浄」 とされる。東洋では 「南面思想」 のように、自然を重んじる。一方、西洋では右利きが多数派であることから、”右 = 優位”、”左 = 劣位” の概念が生まれたのだと思われる。すなわち、西洋は 「人間中心主義」、東洋は 「南面思想」 のように自然を重んじる文化に起因すると思われる。前漢以前の中国の 「右上位」 の概念は、自然発生に加えて、周王朝が 「右上位」 の西方騎馬民族と接点があった可能性も拭い切れない。「左右」 はヒトの体の対立軸であり、これを基準に各種概念が形成されてきた。「左上位」 と 「右上位」 の違いはあっても、「左右」 を対立軸とする価値観は、人類共通といえる。

コメント