地方自治体の財政難:「基準財政需要額」 計算式の見直しが必要!
- Hirokazu Kobayashi

- 1月6日
- 読了時間: 6分
更新日:1月12日
小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
私は静岡県立大学で定年退職を迎え、その後も静岡県に住んでいる。静岡県は財政難だと言う。そこで、静岡県財務諸表 (財務部財政課, 2025年10月) を調べてみると、実態が見えてくる。これから計算すると 「将来負担比率」 が234.1% (2024年度) になる。
将来負担比率 = (将来負担額 − 充当可能基金額 − 特定財源見込額 − 地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額)/(標準財政規模 − 算入公債費等の額)
将来負担額:地方債や債務負担行為等の将来の負担額
充当可能基金額:将来の負担に充てることができる基金の残高
特定財源見込額:将来負担の充当に充て得る特定財源の見込 (国庫支出金、使用料・手数料、分担金・負担金等)
地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額:臨時財政対策債 + 交付税算入率が高い地方債
標準財政規模 = 標準税収入額等 + 普通交付税額 + 臨時財政対策債発行可能額
算入公債費等:交付税で補填される地方債償還相当額
普通交付税額 = 基準財政需要額 − 基準財政収入額
基準財政需要額:後述 (これがキーワード)
基準財政収入額 ≒ 標準的な地方税収入の75% + 地方譲与税等
地方譲与税:国税として徴収された税収の一部を、一定の基準に基づいて国から地方自治体に配分する税
下線:国税を原資とする財源 イタリック体:部分的に国税を原資とする財源
そこで、全国の将来負担比率を見てみよう (総務省 地方財政状況調査関係資料 令和6年度地方公共団体の主要財政指標一覧, 2025年12月)。
将来負担化率 (2024年度)
全国 (都道府県):144.1%
高い道府県 (トップ6)
兵庫県:311.3%
北海道:307.0%
新潟県:287.0%
京都府:257.2%
福岡県:245.3%
静岡県:234.1%
低い都県 (ボトム6)
奈良県:102.0%
千葉県:101.3%
青森県:58.0%
神奈川県:54.5%
沖縄県:24.2%
東京都:13.6%
将来負担比率が最低の東京都は、上記の普通交付税額の計算式において右辺がマイナスになり、交付税ゼロの 「不交付団体」 となっている。それでも、企業本社が集中しており、東京都が投じるインフラ等整備費に対して税収が多い。その他の道府県については将来負担化率と地方行政との因果関係が見え難い。しかしながら、都道府県の 「将来負担比率」 の高低は、単に財政運営の巧拙ではなく、国・市場・自治体の間で、誰がインフラとリスクを引き受けているかを反映している可能性が高い。比較の結果見えてきた要因を整理すると、概ね次のように解釈できる。これらで、「高値要因」 が低い場合は 「低値」 になり、「低値要因」 が低い場合は 「高値」 になる。すなわち、10のカテゴリーに分類される。「将来負担化率」 が中値の府県は、これらの要因の何れもが強く効いていない。以下では、各道府県は複数の要因に同時に当てはまり得るが、主となる要因に対して該当道府県とした。
「将来負担比率」 高値要因1:通過・供給インフラ負担 (通過県・供給県)
全国の物流・人流・エネルギー・水資源などを支える 「通過・供給型インフラ」 を抱え、その維持更新・防災負担を県財政が担いやすいタイプ。利用者は全国に広がる一方、維持主体は県に集中しやすく、将来負担比率が高く出やすい。該当:兵庫県、新潟県、静岡県
「将来負担比率」 高値要因2:広域中枢機能負担 (広域サービスの引受け)
周辺地域の医療・教育・交通・商業・行政機能を集約する広域中枢として、都市型インフラやサービス需要を引き受けるタイプ。広域から人と需要が集まる一方で、税収の帰属は東京や国に分散し得るため、負担がストックとして残りやすい。該当:京都府、福岡県
「将来負担比率」 高値要因3:広域・低密度・寒冷地 + 債務ストック積み上げ型
広大・低密度・寒冷地という条件によりインフラ維持更新の固定費が大きくなりやすい上、過去の景気対策追随型の公共投資や収支補填債 (行政改革推進債・退職手当債等) によって地方債残高が厚くなった結果、将来負担比率 (ストック) と実質公債費比率 (フロー) が同時に高く出やすいタイプ。該当:北海道
「将来負担比率」 低値要因1:国直轄・交付税吸収型 (負担の “国への付替え” が効く)
大規模インフラや特別な政策負担が国直轄・国費負担で処理されやすく、また交付税依存度が高いため、地方債等があっても交付税算入見込 (国の手当) で将来負担比率の分子が強く圧縮されやすいタイプ。将来負担比率が低く出ても、必ずしも財政的余裕や自立性を意味しない点に注意を要する。該当:沖縄県、奈良県
「将来負担比率」 低値要因2:フロー重・ストック軽 (償還前倒し + 交付税措置の効き方)
実質公債費比率 (返済の重さ=フロー) と将来負担比率 (将来に残る純負担=ストック) の乖離に注目する要因。償還を前倒ししている、または交付税措置が見込まれる地方債の比率が高い場合、当面の返済負担は大きく見える一方で、将来の純負担は小さく見える。実質公債費比率は高めだが将来負担比率は低い県は、この要因で説明しやすい。該当:青森県
静岡県が 「通過・供給インフラ負担」 県である具体例として、新東名高速道路は、静岡県区間が片道3車線で整備されている。一方、愛知県区間は片道2車線である。これは、静岡県が全国物流や災害対応を支える国家的幹線として、より大きな役割を担っていることの表れである。高速道路本体の建設費は国と高速道路会社が負担しており、県の直接的な財政負担は限定的である。しかし、防災対応の観点から静岡県の意向が設計段階に反映され、ヘリポートの整備などが行われた。静岡県は周辺インフラを通じて間接的な負担を負っていると言える。また、統計資料 (厚生労働省 令和6年 薬事工業生産動態統計調査, 2025年12月) では、2024年の静岡県の “医薬品 + 医療機器” の生産金額は1.09兆円であり、全国1位となる。これらの生産は静岡県に集積しているにも係わらず、利益・意思決定・知財・金融等の “本社機能” が東京に集まる結果、法人関係税や高付加価値部分が静岡県に帰属しにくい。その一方で、産業立地を支える物流・防災・環境対応などの “周辺コスト” は静岡県側の負担となりやすい。
将来負担比率の県間格差は、自治体の努力の差というより、国の制度設計と産業・インフラの役割分担の結果として、負担がどこに “滞留” するかを映し出している可能性が高い。将来負担比率の計算式において、下線部の財源が国から来る点に注目して欲しい。これには、都道府県ごとの 「基準財政需要額」 が適用される。この計算式では、人口、高齢者数、面積、道路延長、学校数などの項目が加味される。しかしながら、上記の要因は基準財政需要額の計算式において加味されていない。すなわち、基準財政需要額によって一定の補正はなされているものの、上記要因がもたらす構造的影響を適切に評価しているとは言い難い。基準財政需要額の計算式は見直し可能とされながらも、その大枠は1960年代に基本構造が成立。その後も部分改訂・補正係数の追加は行われているものの、現状に沿った基準財政需要額計算基準の大幅な見直しが望まれる。現在政府内で議論されている積極財政の観点からも、基準財政需要額計算基準の見直しが急務であると考える。
脚注:数値整理および制度構造の確認には、生成AI (ChatGPT 5.2) を補助的に用いたが、最終的な解釈および責任はすべて筆者に帰属する。




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