円安・長期金利上昇は国債増発と無関係!
- Hirokazu Kobayashi

- 3 日前
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小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
円安と長期金利上昇は、国債増発による国際信用度低下が原因であると、マスコミは連日のように報じる。これはマスコミのみならず、その情報を収集したAIまでもが類似の答えを返してくる。この種の理論は家計感覚に訴えるが、「誤認」 と言わざるを得ない。本日現在、日本のクレジット・デフォルト・スワップ (債務不履行リスク, CDS: credit default swap) は、”20 bps” 前後と世界最低水準を維持している。これは、企業や国の信用リスク (破綻リスク) を売買する金融派生商品であり、”bps (basis points)” は対象となる企業や国の信用リスクを示す。bpsは0.01%に相当し、この数値が高いほどリスクが大きく、国債や社債の 「信用保険料」 のような役割を果たす。すなわち、bpsは売り手 (保険を売る側) と買い手 (保険をかける側) により刻々と変わる。これが低いということは、リスクが低い、すなわち信用できると市場が判断していることになる。日本のそれは、”20 bps” を少し越える程度であり、EU諸国と肩を並べ、米国約 ”30 bps” や 中国約 “40 bps” より低い。ロシアは5年平均で “13,800 bps”、2012年のギリシャは “25,000 bps” まで上昇した。このように、国債増発による信用度低下が円安と長期金利上昇を導いているという主張は、その前提条件が破綻している。一方、経済の国際信用の尺度として、”国別信⽤格付” がある。これには、三⼤信⽤格付会社の評価が有名であるが、その客観性は担保されていないとの見解もある。
何故、国債増発でも ”低CDS = 高信用度” を維持できるのか? 現代貨幣理論 (MMT: modern monetary theory) によると、日本国債はデフォルトに至らない。この理論は、1905年に発表された 「表券主義 (chartalism)」 に根ざす。すなわち、「信用度が高い」 主権通貨を持つ国の国債はデフォルトしないとする。このMMTは、1980年〜1990年代のアルゼンチンの債務危機および2000年代のジンバブエのハイパーインフレ・通貨崩壊のように、自国通貨の信用度が低い場合は成り立たない。すなわち、通貨の信用度が鍵となる。日本 「円」 は世界三大基軸通貨の1つであり、したがって、MMTが成立し、「国債残高の多寡 ≠ 財政破綻リスク」 と言える。
それでは、円安の原因は? 主として、(1) アメリカは利上げを繰り返し国債 (政策) 金利は4.25〜4.5%に達している。一方、日本の政策金利は0.5%と低く、他の金利 (長期金利、市中金利) も相対的に低い水準を保っている。投資家は金利が高い “ドル” を買い、金利が低い ”円” を売る (図参照)。これは、経済学で 「カバーなし金利平価 (UIP: uncovered interest parity)」 と呼ばれる理論である。付加的な要因として、(2) エネルギー輸入代金の上昇。輸入代金の支払いに必要なドルが増えるため、日本企業は円を売ってドルを買う。これにより、円の需要が減り円安になる。さらにマイナー要因として、(3) 株価・投資マインドが挙げられる。

図 国債増発と円安・長期金利上昇の関係
MMT: 現代貨幣理論、CDS: 債務不履行リスク、UIP: カバーなし金利平価、EPS: 株当たり純利益
一方、長期金利は、今月1.9%強にまで上がった。マスコミは、国債増発で信用度が低下 → 高い金利を払わないと長期国債を買ってもらえないと主張する。これが国債ではなく、家計の借金なら信用を失う。しかし、日本銀行に通貨発行権 → デフォルトに至らず (MMT) → 金利は政策・需給・インフレ期待の反映 → 金利上昇。すなわち、将来の成長期待 → 人気がある (売買が活況) → 金利上昇という構図となる。マスコミの理解は、家計類推による誤った因果関係の説明であり、制度理解の欠如が原因である (図参照)。ここで、家計の制約は 「返済能力」 であり、国家の制約は 「インフレ許容度」 となる。なお、政策金利上昇は円買いを促し、円高を招く。すなわち、日本銀行は能動的に政策金利操作により円高あるいは円安誘導ができる。これに対し、長期金利上昇は市場の動きに対応した受動的結果論であることに注意して欲しい。




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