小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
2023年10月7日から始まったイスラエル・ネタニヤフ政権によるガザ地区攻撃は、結果的に被害者が一般住民にまで及び世界の非難を浴びている。この地域に紛争が多いのは何故だろう? 中東は、2000年ほど前までは緑に恵まれた肥沃な土地であった。紀元前6000年頃からチグリス川・ユーフラテス川周囲に発達したメソポタミア文明、紀元前3000年頃からナイル川周辺に栄えたエジプト文明。その後、イエス・キリスト (紀元前4年頃〜紀元後30年頃) がナザレ (現在のイスラエル北部) で生まれた。また、イスラム教の教祖であるムハンマド (570年頃〜632年) が、アラビア半島のメッカ (現在のサウジアラビア) で誕生。サウジアラビアは既に砂漠化していたが、現在よりはオアシスに恵まれていたと言う。現在の中東は、古生代の終わり (約2億5千万年前) 頃、パンゲア大陸は再構成されたゴンドワナ大陸の一部となり、その後現在の地形に分離・移行していった。この間に、微細藻類に代表される豊かな海洋プランクトンの死骸が蓄積し、現在の石油層が形成されたと考えられている。中東は約2万年前の最後の氷期以降、豊かな土地となり、したがって複数の民族がその地をめぐって争った。現在に至って、乾燥化が進んだが、この地に対する石油利権への世界の思いが錯綜する。
メソポタミアで都市文明を生み出したシュメール人と日本の縄文人の間に、交流があった可能性が指摘されている。明確な接点としては、奈良時代 (710年〜794年)、シルクロードを介してペルシャ (現在のイラン) の文化が日本に伝わった。東大寺・正倉院に残る絨毯、ガラス製品、琵琶や箜篌 (くご)、金属工芸品、陶器を挙げることができる。私たちの生活に不可欠な石油において、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールなどの中東地域からの原油が、全体の92.5%を占めている (2021年度)。すなわち、日本の石油の中東依存度は極めて高い。沼津の慈善活動家 「一杉真城」 さん (1945年〜2022年) は、寄附を集め2004年に日本の病院にて、米軍とイラク武装勢力の戦闘で目を負傷したモアマド・ハイサム少年を治療した。これを機に、外務省が資金を出し、モアマド君が住むイラクの都市ファルージャに 「子ども病院」 が設立された。私は、アカデミアの立場から、その後の連携活動に共鳴し、一杉さんと親しくさせていただいた。その縁があって、彼の地での日本大使、日本商社、大学関係者とのネットワークができた。これは、「郡司みさお」 さん (1959年〜) にまで拡がる。彼女の一連の執筆は、「ハルム・アラビアの夢:住んでみた砂漠の国、覗いてみた素顔の暮し (1991年刊)」 から始まる。
地球の年齢は46億歳だと言われる。この間、大きな周期の気温変動があり、現在は約260万年前から始まった 「第4紀氷河時代」。その中に約10万年周期で氷期と間氷期が繰り返す。最後の氷期のピークは約2万年前で、このときは海水面が120 m沈降し、日本列島は朝鮮半島と樺太を介して大陸と繋がった。この周期では、温暖化の期間は短く、寒冷化は徐々に進む。間氷期のピークは約6,000年前とされる。氷期と間氷期の頂点間で、気温差は10℃ほどになる。この周期は、”ミランコビッチ・サイクル” と呼ばれ、これには、地球の公転軌道離心率や地軸の傾斜角の変動が関与すると言われている。現在の地球温暖化要因がなければ、次の氷期の訪れは8万年後ぐらいとなる。しかし、地球温暖化のため、これが最長で5万年程度遅れると考えられている。これを知っても、地球温暖化に対して無策ではいけない。数百年単位で考えると、地球温暖化は生態系や気候に大きな影響を及ぼし、食糧供給が危ぶまれ、また異常気象が災害を招くことを忘れてはならない。しかし、地球温暖化に対する人類の配慮があり、砂漠地下に眠る水資源を上手く利用する手段、あるいは効率のいい海水淡水化技術が開発されれば、中東に緑が戻ってくることが期待される。

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