小林裕和
(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授
約1,000前の平安時代、「安寿と厨子王」 で厨子王が最後に出会う目の不自由な年老いた母親は、白内障を患っていたのではないかと思える。高齢者に多い目の病気は、「白内障」、「緑内障」、「加齢黄斑変性」 の順であり、65歳以上の60~70%が白内障であると言われている。白内障は、2000年頃までは治療が難しい病気であった。年寄りは目が悪いのが当たり前であり、それを受け入れるしかなかった。私たちはいい時代に生まれたものだ。私の場合、走行中に高速道路の標識が読み取りにくくなり、また、スクリーンに映写されたスライドの字が読み辛いと感じるようになった。そこで、眼鏡を色々と代えてみたが改善せず、ついに眼科医を訪ねることとしたのは、55歳の時であった。白内障だと診断され、薬で進行を抑えられる可能性はあるが、症状改善には手術しかないと言われた (発症の年齢が平均より早かった)。セカンド・オピニオンを求めて、別の眼科医を訪ねたが、同意見であった。そこで手術を決断することなるが、この手術で核となる技術は、ゲル化した水晶体の内容物の超音波乳化吸引、そして装着時に折りたため装着後開く眼内レンズの登場である。
この眼内レンズには選択肢が残される。単焦点か多焦点か。単焦点の場合は、通常遠くに焦点を合わす。したがって、読書の際などには老眼鏡を着用。一方、多焦点は遠くと近くの両方が見えるという欲ばりなタイプ。しかも、保険適用外となり高価。そんなに入れ換えるものではないので、私の場合最新技術と思える多焦点にしてみた。しかし、単焦点を勧める眼科医が少なくなく、多焦点は少し冒険であるが、私には合っていた。今は、裸眼で "1.0" が出ており、これで近くも遠くも眼鏡いらずだが、多焦点と言っても2010年当時は2焦点。デスクトップ・パソコンでの仕事時は、中距離のため眼鏡がある方が見やすい。人間の脳は優れたもので、2焦点レンズで遠くあるいは近くを見ると、シャープとぼやけた画像の両方が網膜に映るが、脳はシャープな画像のみを認識する。しかし、夜間は話しが違う。光を見るとぼやけた方の画像を取り除けず、ハロー (光輪) あるいはグリア (ギラギラ) となるが、慣れれば違和感はなくなる。単焦点と多焦点のどちらがよいかと尋ねられると、まだ活動的でいたいなら多焦点、そうでないなら単焦点と答える。
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