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執筆者の写真Hirokazu Kobayashi

日本の縮図 「静岡県」:複数の先行事故!

更新日:10月26日

小林裕和

(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授

 

ペットボトル緑茶のランキングでは、サントリー 「伊右衛門」、伊藤園 「お~いお茶」、キリンビバレッジ 「キリン生茶」 が上位を占める。これらの販売に先立ち、消費者の好みや反応の調査 「嗜好テスト」 は、静岡県で行われることが多いと聞く。静岡県には、山、川、海があり、平均年収も全国で中位。また、静岡県は東西を結ぶ要衝であり、江戸時代には東海道53次のうちの22の宿場があった。すなわち、東西両方の文化の影響を受ける。結果的に、全国市場に近い特性をもっている。さらに、消極的な風土がかえって市場調査に合うと言う。

 

静岡県の不幸な出来事で、それ以降規制が見直された例をいくつか挙げることができる。1979年7月11日18:40ごろ、東名高速道路の日本坂トンネル下り線で多重衝突事故が発生し、車両火災を誘発。衝突事故により4名が即死、3名が車両から脱出できず焼死、2名が負傷した。計173台の車両がトンネル内で火災に巻き込まれ、鎮火までに約65時間を要した。この事故は完全復旧に2ヶ月を要し、部品や材料の調達不良に基づく自動車生産ラインの停止など産業への影響、ゴミ収集や郵便配達の停滞、野菜や魚などの品薄さらに値上がりなど、国民生活に大きな影響を与えた。また、焼失した173台のうちの7割にあたる127台がトラックで、そのナンバープレートは東北地方を除いた日本のほぼ全域をカバーしていた。焼けた積み荷は、自動車部品、農産物、金属材料、ゴム、紙ロール、水産物、清涼飲料などあらゆる産業の材料・製品が含まれ、これによって、東名高速道路が果たしている社会的役割を認識することとなった。名神高速道路 (全線開通:1965年) と東名高速道路 (全線開通:1969年) は、現在は通して 「E1: Expressway 1」 と呼ばれる。これは太平洋側の東西を結ぶ物流の大動脈であり、その開通10年目にしての問題提起となった。


これは、日本坂トンネル火災事故」 と呼ばれ、これを教訓に全国のトンネル内の消火設備と換気装置が改良された。また、長いトンネルでは、「70 km/時」 速度制限と車線変更禁止の措置が取られるようになった。事故の発生を知らずに進入した多数の車両が被害に巻き込まれたことから、トンネル用信号機と情報板が強化され、これは全国の5 km以上のトンネルに適用されていった。1998年、3車線の下り線トンネルが新設され、事故が起きた下り線トンネルは上り線に転用された。すなわち上り線は各2車線の2トンネルとなっている。また、車線変更禁止は解除された2000年頃、この事故があった方のトンネルを通過中、金属製の2 mぐらいの鉄柱の落下物に遭遇した。しかし、周りの車両を考慮すると減速や回避はかえって危険であり、突進するしかなかった。その結果、頭を車の天井に打つけ、ホイールカバーが破損したが、大事には至らなかった。トンネルを抜けた待機地帯で、複数台の車両がパンクのため動けなくなっていた。これは、「日本坂トンネル火災事故」 の呪いかもしれないと考え、以後事故が発生した方のトンネルは避けることにしている。

 

1980年8月16日9:31、国鉄 (現: JR東海) 静岡駅北側 「ゴールデン地下街」 の一角にある静岡第一ビル地下の寿司店において、ガスへの引火により爆発が発生。寿司店の床と奥の機械室が大破したものの、火災には至らなかった。しかし、この爆発により都市ガス管が破損し、ガス管から漏れた都市ガスが地下街から静岡第一ビルの上層階にも達していた。これへの引火により、9:56に2回目の爆発が起こった。向かいの西武百貨店静岡店 (現: 静岡パルコ) や隣接する商店および雑居ビルなど、半径100メートル圏内の163店舗にガラスや壁面の破損など甚大な被害をもたらし、15人が死亡し、223人が負傷した。当時の安全基準によりビル内のガス管に遮断弁は設置されておらず、また、マンホールは爆発で瓦礫が積み重なっており、ガス供給遮断措置が困難。そこで、道路を掘削しての遮断となり、15:30まで鎮火を見ることができなかった。これは、「静岡駅前地下街爆発事故」 と呼ばれる。これにより、1981年に消防法施行令などが改正され、緊急ガス遮断装置やガス漏れ警報装置などの設置が法令化されることとなった。また、地下街の新設も、1986年に開業した神奈川県川崎市の 「川崎アゼリア」 まで認められなかった。さらに、宮城県仙台市では、地下街の開発が計画されていたが、地下街に関する保安基準の厳格化により計画が中止となった。


一次爆発が被害甚大の二次爆発を誘発したため、一次爆発の原因が追及された。都市ガスが何らかの原因で漏れて一次爆発に至ったとする 「都市ガス説」。地下の湧水槽に長い間に溜まった有機物が分解してメタンガスが発生し、それが爆発したとする 「地下メタン説」 が対立した。都市ガス説を主張する被災者の会がガス事業者を相手取り損害賠償を求めて提訴したが、1996年3月14日静岡地裁にて、一次爆発は地下湧水槽において発生し滞留していたメタンガス等の可燃性ガスに着火したものとの判断が下された。静岡県より以西の日本の太平洋側の地域は、海洋プレートが沈み込む際に海底堆積物が大陸プレートの側面へ付加し、その後隆起してできた 「付加体」 という地層からなっている。付加体は有機物を多く含む深さ約10 kmを超える厚い堆積層であり、有機物を分解してHとCOを生成する水素発生型発酵細菌とHとCOからメタンを生成する水素資化性メタン生成菌が共生している。その結果、付加体の深部帯水層においてメタンが生成される。一次爆発の原因となったメタンガスはこの一部かもしれない。

 

2021年7月3日10:28、地滑りで民家が流されたという通報が入り、熱海市の消防隊が出動した。通りが土砂で埋まり通報現場に辿り着けない中、大規模な土石流が発生。土石流は逢初川 (あいぞめがわ) を南東方向に向かって海まで約1 km流下。これにより住宅131棟が被害を受け、災害関連死1名を含む28名が死亡した。これは、「熱海市伊豆山 (いずさん) 土石流災害」 と呼ばれる。これを受け、国土交通省は日本全国の盛り土の総点検を実施。その結果、1,089箇所で不備があることが判明した。2022年3月1日、日本政府は、「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」 を閣議決定した。これにより、「宅地造成及び特定盛土等規制法」 として、盛り土を都道府県知事の許可制とし、罰金刑および懲役刑を定めた。この法令は、同月29日に衆参両議院に付託されそれらの可決を経って、2022年5月20日に成立した。同年5月27日に公布、2023年5月27日に施行された。

 

静岡県の北側にそびえる赤石山脈 (南アルプス) や富士山は、冬季には北風を遮り、静岡県中東部に温暖な気候をもたらす。一方夏季には、台風による南風や停滞前線により太平洋の多量の水分を含んだ雨雲からの豪雨をもたらす。「熱海市伊豆山土石流災害」 以外にも、この地では、床上浸水26,452棟、床下浸水54,092棟、死者44人、負傷者241人の被害をもたらした 「七夕豪雨」 (1974年7月7日〜8日)。最近では、2022年9月23日〜24日の台風15号による洪水。今年は8月16日の台風7号、8月30日は台風10号により、東海道新幹線、東海道本線が運休。さらに、東名高速道路、新東名高速道路が通行止めとなり、物流と人の移動に大きな影響を及ぼした。

 

日本列島は、約2,000万年前にユーラシア大陸から分離し、その後ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレート、太平洋プレートのせめぎ合いにより現在に至る。これらのうち3者の衝突点に位置する静岡県は、日本の太平洋側の真ん中であり東西を結ぶ交通の要衝となっている。また、フィリピン海プレートの沈み込みによりメタンが蓄積している。さらに、海洋プレートの衝突により生じた赤石山脈と富士山が豪雨をもたらす。このような観点から、日本を象徴するような、あるいは日本を代表するような土地柄と言え、結果的に、この地の出来事が全国に波及していく。




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