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研究不正:何故なくならない?

執筆者の写真: Hirokazu KobayashiHirokazu Kobayashi

更新日:2024年7月10日

小林裕和

(株)グリーン・インサイト・代表取締役/静岡県立大学・名誉教授・客員教授

 

10年前に発覚した小保方晴子さん (1983年〜) による 「STAP細胞事件」 は、自殺者まで生み、悲しい事例となった。研究者は、その就職や研究費獲得において研究業績という篩に掛けられる。また、研究機関にとっても、研究業績がその存続に係わる。そこで、研究業績を上げようとし、ここに無理が生じることになる。元来、自然科学の研究の面白さは、誰も知らない仕組みを解明する醍醐味にある。生まれてまもない子供は、視覚や聴覚から入る情報に興味を示す。もう少し成長するとその対象物に触ろうとする。さらに、中がどうなっているのかを知ろうとする。自然科学研究者はこのような好奇心に動かされ、自然現象に潜む謎を解明しようとする人たちである。しかしながら、これが職業となると話が違ってくる。1800年ごろまで、科学者はパトロンからの支援が得られる人や聖職者などに限られていた。その後、研究者が職業化されると、芸術家や文学者などと同じく競争に曝される。芸術や文学は受け手側が評価する。一方、研究はその結果に至る精度の立証が難しいため、不正が介在する余地が生まれる。


最近の研究は規模が拡大し、共著者が100名を超える学術論文も見かけられる。その場合でも、実験結果にダブルチェック、トリプルチェックが入っているとは限らない。共著の場合も、個々の部分は個人が担当し、その集合として全体が成り立つ。したがって、個人担当部分に不正があっても事前に気付くことは難しい。研究不正には、「盗用」、「捏造」、「改ざん」 がある。画像の不正として、同じ画像が別の実験結果として再利用されている場合は、判別が容易である。学術雑誌40誌に対し、この種の不正が調べられた。1995年はほぼ0%であるが、2006年に5.5%となり、その後4%台で推移している。画像分析からは見出せないような研究不正は、どのようにして見つかるのか。興味深い研究結果ほど、関連分野研究者はその先に潜む謎に挑戦しようとする。そのためには、先ず実験結果の再現から始めることになる。研究不正があるとここで再現できないということになる。このようにして発覚した研究不正は、インターネット上で数百件を確認することができる。観点を変えれば、他の研究者に興味を抱かれない研究における不正は見過ごされる。定量的な解析においては、複数回の結果の統計的処理が求められる。また、遺伝情報発現を包括的に解析する場合は、材料の反復、解析の反復が要求される。仮に10回実験を繰り返したとして、8回まで再現性があれば、再現性がない2回は実験上の不備があったと判断し、その8回分だけをピックアップして統計処理をするか。もし再現性が取れるのが、10回のうち6回ならどうしよう。ここに主観が入り、「適正化」 と称するグレーゾーンとなる。さらに、研究責任者が研究計画や方法を準備し、実験は研究室メンバーが担当するという場合、研究室メンバーのレベルで適性化の処理が入っていても、それを見抜くことは難しい。このように、研究における誤りは研究不正以外にも生じる余地がある。

 

研究論文発表には査読が入る。これは通常は研究内容を把握できる関連分野の複数の研究者が匿名で当たる。関連分野研究者と競合していたり、逆に親しかったりすると、公正な判断が下せない可能性が高い。したがって、外して欲しいあるいは入れて欲しい査読者を投稿時に挙げることができるが、それら以外の研究者を含めて、誰が査読者になるかは編集者の判断に委ねられる。研究業績は、評価が高い学術雑誌に掲載された研究が高く評価されるが、一方では、発表論文数を研究業績の指標にする場合もある。したがって、査読を経ないで掲載される学術雑誌が登場した。これは 「ハゲタカ・ジャーナル」 と呼ばれる。このような学術雑誌は1,000件以上あり、そのリストがインターネット上に公開されている。一方、コロナ禍においては、人命に係わる研究結果をいち早く関連分野研究者に届ける必要性が高まった。査読には通常数週間を要する。したがって、査読を経ない 「プレプリント」 が、インターネット上に発表されることが多くなってきた。この種のプレプリントの登場は、1991年まで遡ることができ、コーネル大学の “arXiv (発音が archiveとなり 「文書館」 を意味する)” となる。また、機器分析を中心に、膨大な分析データを整理せずに関連研究者間で共有する動きも活発化しており、国内では、「文部科学省・マテリアル先端リサーチインフラ (ARIM)」 が進められている。これらの活動を ”オープンサイエンス” と呼び、玉石混淆の情報から必要なものを拾い出す能力が、研究者には求められるようになった。

 

研究不正の防止・改善策として、研究者の採用・昇格においては、研究業績のみならず、面接などを介して本人の実力を判断できるよう審査員の力量を高めることが望まれる。また、研究費獲得においては、大型研究費より文部省科学研究費補助金クラスの研究費を増やす。内閣府の統計データにおいて、科学研究費補助金が最も費用対効果が高い研究費との結果が出ている。この審査の際も、審査員は、関連分野研究者が匿名で務めることになる。過去の研究業績より提案内容を重視して審査が行われるよう、審査項目とその比重をさらに精査していくべきである。




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